【要注意】一人親方の社員化はいつ必要?偽装請負リスクと採用戦略

「長年お願いしている一人親方がいるが、これは請負のままで問題ないのだろうか」
「社員化したほうがいいと聞くが、コストが上がるだけではないか」

日々の現場管理と経営に追われる中で、このような外注先との契約形態に不安を抱えている経営者様や人事担当者様は非常に多くいらっしゃいます。国土交通省が「規制逃れを目的とした一人親方」への対策を本格化させ、元請企業に確認と是正を求める流れが強まっているためです。

しかも2026年10月1日から、インボイス制度の経過措置が縮小されます。免税事業者への外注は、これまで以上に発注側の負担が重くなります。本記事では、社員化を検討すべき一人親方をどう見分けるのか、判断を誤るとどのようなリスクが生じるのかを一次情報に基づいて整理し、社員化を採用戦略として活かす方法までを解説します。

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目次

一人親方をめぐる環境が変わっている

国が問題視する「偽装一人親方」

一人親方そのものが問題なのではありません。問題視されているのは、実態は雇用なのに請負契約の形をとっている状態です。社会保険料の負担や残業代の支払いを避ける目的でこの形がとられている場合、国は「規制逃れを目的とした一人親方」と位置づけています。

背景には、建設業で社会保険加入の徹底が進められてきた経緯があります。加入義務を果たす企業ほど人件費が重くなるため、負担を避ける手段として技能者を一人親方として扱う動きが一部で広がりました。本来は独立して腕を振るうための働き方が、コスト調整の手段に使われてしまったわけです。

国土交通省は「建設業の一人親方問題に関する検討会」を設置し、適正でない一人親方を減らすための目安とチェックリストを示しました。技能者本人の保護はもちろん、まじめに社会保険料を負担している企業が競争上不利にならないようにする狙いもあります。

2026年10月のインボイス経過措置の縮小

見落とされがちですが、税制面でも外注コストは上がっていきます。免税事業者である一人親方へ支払った費用は、本来は仕入税額控除ができません。ただし経過措置として、一定割合を控除できる仕組みが設けられています。

Check 免税事業者等からの仕入れに係る経過措置
  • 令和5年10月1日〜令和8年9月30日:仕入税額相当額の80%
  • 令和8年10月1日〜令和10年9月30日:70%
  • 令和10年10月1日〜令和12年9月30日:50%
  • 令和12年10月1日〜令和13年9月30日:30%

2026年10月1日をもって80%の期間が終わり、70%へ引き下げられます。控除できない分は発注側の負担です。さらに令和8年10月以降は、一つの免税事業者からの対象仕入れが税込1億円を超える部分について経過措置が適用されなくなります。外注のコスト構造そのものが変わっていくとご認識ください。

金額で見るとイメージしやすくなります。免税事業者へ税抜100万円を支払い、消費税10万円を上乗せしたとします。控除80%なら8万円を控除でき、自社の負担は2万円です。これが70%になると控除は7万円、負担は3万円に増えます。外注100万円ごとに1万円ずつ負担が積み上がる計算です。年間の外注額が大きい会社ほど、影響は無視できません。

元請に求められる確認義務

国土交通省は元請企業に対し、作業員名簿で「雇用保険:適用除外、健康保険:国民健康保険、年金:国民年金」と記載されている技能者について、再下請負通知書や請負契約書の提出を依頼し、契約内容が適切かを確認するよう求めています。

つまり「下請が勝手にやっていること」では済まされません。自社が発注者・元請の立場で一人親方を現場に入れている以上、その働き方が適正かどうかを確認する責任が生じているのです。

その一人親方は「適正」か

国交省が示す3つの目安

国土交通省は、元請企業が雇用契約の締結を促すべき一人親方の目安として、次の3点を示しています。

Check 雇用契約の締結を促すべき一人親方の目安
  • 年齢が10代の技能者
  • 経験年数が3年未満の技能者
  • 働き方自己診断チェックリストのBに多く当てはまる技能者

年齢と経験年数が基準に入っているのは、独立した事業者として請負を行うだけの技能と交渉力がまだ備わっていないと考えられるためです。若手をいきなり一人親方として現場に入れている場合は、契約形態を見直す必要があると理解しておくのが安全です。

労働者性はこう判断される

労働基準法上の「労働者」にあたるかどうかは、契約書の名称ではなく実態で判断されます。判断の軸となるのが「使用従属性」で、次の要素から総合的に見られます。

Check 使用従属性の判断要素
  • 仕事の依頼や業務従事の指示に対する諾否の自由があるか
  • 業務遂行上の指揮監督を受けていないか
  • 勤務時間や場所に拘束性がないか
  • 本人以外の者による代替が認められているか
  • 報酬が指揮監督下の労働の対価(労務対償性)になっていないか

これに加えて、機械や器具を自分で用意しているかといった事業者性、その会社の仕事だけを受けているかという専属性の程度が補強要素として考慮されます。「断れない」「時間を決められている」「道具は元請が用意している」が揃っていれば、労働者と判断される可能性は高くなります。

チェックリストで自己診断する

国土交通省は「働き方自己診断チェックリスト」を用意しています。たとえば報酬が労働時間や日数によって変動している場合は、請負ではなく労働の対価と評価されやすくなります。

また、契約金額に労災保険特別加入の費用や資機材の必要経費が反映されておらず、雇用されている同種の技能者と同額程度の報酬になっているケースも、不適正な兆候として挙げられています。事業者であれば当然に必要な経費が価格に乗っていない、という点が見られているわけです。

労働者と判断された場合に生じること

社会保険・労働保険の遡及適用

実態が労働者だと判断されると、契約の名称にかかわらず労働関係法令が適用されます。過去にさかのぼって処理が必要になる点が、経営に与える影響としては最も重いところです。

Risk 労働者と判断された場合に生じること
  • 健康保険・厚生年金の遡及加入と保険料の追徴
  • 雇用保険の遡及適用
  • 未払い残業代の請求
  • 年次有給休暇の付与義務
  • 解雇に関する規制の適用

保険料は労使折半が原則ですが、遡及分は事業主がまとめて負担せざるを得ない場面が少なくありません。人数が多いほど金額は膨らみます。

未払い賃金と労災時の責任

一人親方は労災保険の特別加入をしていなければ、労災保険の給付を受けられません。未加入の状態で事故が起きた場合、被災者から直接損害賠償を請求されるリスクが残ります。

労働者と判断されれば、そもそも通常の労災保険の対象だったことになります。加入手続きを怠っていた期間の保険料に加え、給付額の一部を徴収される可能性もあります。安全配慮義務違反を問われれば、賠償額はさらに大きくなります。

発注者側にも及ぶ影響

影響は直接契約している会社だけにとどまりません。元請は建設現場全体の統括安全衛生責任者としての義務を負っており、現場に不適正な一人親方が入っていれば、指導が不十分だったと評価されかねません。

取引先や発注者から契約形態の確認を求められる場面も増えています。適正でない一人親方を多く抱えていることが分かれば、現場に入れてもらえなくなる可能性もあります。是正は「いつかやること」ではなく、取引を続けるための条件になりつつあります。

公共工事を受注している企業であれば、経営事項審査や入札参加資格への影響も現実的な懸念です。目先の外注費の抑制と引き換えに負うリスクとしては、割に合わないと考えるのが妥当でしょう。

社員化を採用戦略に変える

社員化のメリットとコスト

一人親方への外注は、コストが安いからと続けてきました。今から社員化して、本当に会社は回るのでしょうか?

社員化は「コストが増えるだけの対応」ではありません。人材の定着という観点では、むしろ攻めの投資になります。

OK 社員化で得られるもの
  • 社会保険が整い、若手が入社を検討できる会社になる
  • 技能の承継が社内に蓄積される
  • 現場の指示系統を適法に一本化できる
  • 法令違反のリスクが解消される
  • 公共工事の受注環境でも評価されやすい

一方で、社会保険料の事業主負担、賞与や退職金の制度設計、労働時間管理の実務といった負担は確実に増えます。この差額を把握したうえで判断することが欠かせません。

段階的に進める手順

全員を一斉に社員化する必要はありません。リスクの高いところから順に手をつけるのが現実的です。

Point 社員化を進める5ステップ
  • ①棚卸し:現場に入っている一人親方の年齢・経験年数・契約内容を一覧化する
  • ②診断:国交省のチェックリストで一人ずつ働き方を確認する
  • ③優先順位づけ:10代・経験3年未満・B該当が多い人から着手する
  • ④条件提示:報酬水準と社会保険を含めた総額で本人に説明する
  • ⑤契約変更:雇用契約を締結し、指示系統と労働時間管理を整える

本人にとっては手取りが変わる話です。社会保険の加入や有給休暇の付与といった得られるものを具体的に示すと、話が前に進みやすくなります。

説明の際は、手取りの増減だけで話をしないことが大切です。厚生年金は将来の年金額に反映され、健康保険には傷病手当金があり、雇用保険は失業時の備えになります。目先の手取りではなく、働けなくなったときにどうなるかという観点を示すと、納得を得やすくなります。

専門エージェントの活用

社員化を進めると、不足した人員を新たに採用する必要が出てくる場面があります。建設業の採用が難しいのは求職者が少ないからだけではなく、保有資格・経験工種・対応可能な工事規模といった条件が細かく、求人票の情報だけではマッチングの成否を判断しにくいという構造的な事情があるためです。

また本記事で見てきたとおり、建設業の人材確保は法規制と隣り合わせです。この契約形態は適正か、どこから社員化すべきか。こうした判断を都度自社だけで行うのは負担が大きく、判断を誤れば遡及負担や信用の失墜につながります。法令を踏まえたうえで採用手段を提案できるパートナーを持つことは、それ自体がリスク管理になります。

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一人親方の社員化に関するまとめ

本記事の要点を整理します。

Point この記事のポイント
  • 問題なのは一人親方そのものではなく、実態は雇用なのに請負契約になっている状態
  • 国交省は10代・経験3年未満・チェックリストB該当の技能者に雇用契約の締結を促すよう求めている
  • 労働者性は契約書の名称ではなく使用従属性の実態で判断される
  • 労働者と判断されれば社会保険の遡及加入・保険料の追徴・未払い残業代が発生する
  • 2026年10月1日からインボイス経過措置が80%から70%へ縮小し、外注コストは上がっていく
  • 社員化は棚卸し→診断→優先順位づけ→条件提示→契約変更の順で段階的に進める

契約書の形ではなく、現場での実態がどうなっているか。そこを一度点検することが、リスク回避と人材定着の両方につながる第一歩です。

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