
「解体工事の話が来たが、石綿の調査ができる人が社内にいない」
「毎回外注していて、その都度費用も時間もかかっている」
解体や改修を手がける経営者様・工事部門のご担当者様から、このようなご相談をいただくことが増えています。石綿(アスベスト)の事前調査は有資格者でなければ行えないというルールが、段階的に適用範囲を広げてきたためです。
石綿事前調査が受注の前提になっている

すべての解体・改修工事が対象
まず押さえておきたいのは、事前調査そのものに規模の下限がないという点です。厚生労働省は「事前調査そのものは、規模によらずすべての工事で実施する必要がある」と明示しています。
小規模な改修だから不要、という判断は成り立ちません。石綿が使われていないことが明らかな場合でも、その判断の根拠を残すこと自体が調査にあたります。「うちは小さい工事しかやらないから関係ない」という認識は、この時点で誤りです。
なぜここまで厳格なのか。石綿による健康被害は、ばく露から発症までに数十年の潜伏期間があるためです。工事の時点では誰も影響を自覚できず、後になって取り返しがつきません。規模の大小で線を引かないのは、少量のばく露でも将来の被害につながりうるという性質によるものです。
報告が必要になる工事の規模
一方、調査結果を労働基準監督署などへ報告する義務には規模要件があります。2022年4月1日から始まった制度で、対象は次のとおりです。
- ✓建築物の解体工事:解体作業対象の床面積の合計が80㎡以上
- ✓建築物の改修工事:請負代金の合計額が100万円以上(税込)
- ✓工作物の解体・改修工事:請負代金の合計額が100万円以上(税込)
- ✓鋼製の船舶の解体・改修工事:総トン数20トン以上
混同しやすいのですが、「調査はすべての工事」「報告は一定規模以上」という二階建ての構造になっています。報告が不要な工事でも調査は必要、という点を現場に周知しておく必要があります。
報告は石綿事前調査結果報告システムという電子システムから行います。労働基準監督署と自治体の双方へ、一度の入力で報告できる仕組みです。紙での提出も可能ですが、件数が増えるほど電子報告のほうが実務負担は軽くなります。
記録は3年間保存
事前調査の結果は記録として残し、事前調査が終了した日から3年間の保存が義務付けられています。
3年という期間は、労働基準監督署の調査が入ったときに過去の案件まで遡って確認されうるということを意味します。案件ごとに誰がいつ調査したかを追える形で残す運用にしておかないと、後から揃えるのは困難です。
記録には、調査した建材の名称や石綿の有無、判断の根拠などを残します。「調査した」という事実だけでなく、なぜそう判断したかが問われる点がポイントです。図面や過去の改修履歴を確認した記録も含めて整理しておくと、後の照会に耐えられます。
調査は有資格者でなければできない

建築物は2023年10月から
建築物の事前調査については、令和5年(2023年)10月1日以降、有資格者が行うことが義務付けられています。認められる資格は次のとおりです。
- ✓一般建築物石綿含有建材調査者:すべての建築物を調査できる
- ✓特定建築物石綿含有建材調査者:すべての建築物を調査できる(より高度な講習)
- ✓一戸建て等石綿含有建材調査者:一戸建て住宅・共同住宅の専有部分に限定
- ✓日本アスベスト調査診断協会に2023年9月までに登録された者
注意したいのは一戸建て等調査者は対応範囲が限定される点です。戸建てリフォームが中心なら足りますが、店舗やビル、工場の案件が入ってきたときには対応できません。将来受けたい仕事から逆算して、どの資格を取るかを決める必要があります。
工作物は2026年1月から
そして今年、対象が大きく広がりました。令和8年(2026年)1月1日以降、工作物の解体等に係る事前調査についても、有資格者が行うこととされています。
建築物の調査資格を持っていれば工作物もすべて見られる、というわけではありません。工作物石綿事前調査者という区分が設けられており、作業の種類によって必要な資格が分かれます。建築物側の資格だけで対応できる範囲もあるため、自社が受ける工事の内容と突き合わせて確認する必要があります。
工作物が対象に加わった背景には、高度経済成長期に造られた設備の更新時期が重なっていることがあります。プラント、送配電設備、鉄道・道路構造物の解体や改修は今後さらに増えていきます。需要が伸びる領域だからこそ、規制も先回りで整備されたと見るのが自然です。

対象となる特定工作物
「工作物」と言われてもイメージしにくいかもしれません。石綿が使用されているおそれが高いものとして、次のような設備が挙げられています。
- ✓反応槽、加熱炉、ボイラー、焼却設備
- ✓配管設備、貯蔵設備、煙突
- ✓発電設備、変電設備、配電設備、送電設備
- ✓トンネル天井板、遮音壁、軽量盛土保護パネル
- ✓プラットホーム上家、鉄道駅の地下構造部分、観光用エレベーターの昇降路
プラント設備、電力設備、鉄道・道路構造物が広く含まれています。建築物を扱っていない土木・設備系の企業にも関係するということです。加えて特定工作物以外でも、塗料など石綿が使われているおそれのある材料の除去作業は対象になります。
有資格者がいないと何が起きるか

工事の入口で止まる
最も直接的な影響は、調査が終わらなければ工事に着手できないことです。事前調査は解体・改修作業を始める前に完了している必要があります。
- !調査を外注するまで着工できない
- !外注先の空き状況に工期が左右される
- !急ぎの案件や小規模案件を断らざるを得ない
- !調査費用が案件ごとに積み上がり利益率が下がる
- !元請から「調査体制はあるか」と問われた際に答えられない
特に痛いのはスピードで負けることです。すぐ動ける会社と、外注の順番待ちが必要な会社とでは、声がかかる回数そのものが変わってきます。
たとえば「来週から入ってほしい」という引き合いがあったとき、外注の調査が2週間待ちであれば、その案件は他社へ流れます。単価ではなく体制の問題で失注するという、もったいない負け方です。
元請・発注者からの信頼
石綿は健康被害に直結するため、元請や発注者の側も神経を使っています。調査体制が整っているかどうかは、発注先を選ぶ際の判断材料になります。
逆に言えば、有資格者を社内に抱えていること自体が営業上の強みになります。「調査から一貫して対応できます」と言えるかどうかは、見積書の金額とは別のところで効いてきます。
外注に頼る場合のコスト

年に数件だけなので外注で回してきました。社内に資格者を置くべきか、判断の目安はありますか?
外注という選択肢自体は否定されるものではありません。年に数件しか解体・改修を扱わないのであれば、その都度依頼するほうが合理的です。
調査者を確保する3つの方法


社内で資格を取得させる
最も現実的なのは、既存の社員に講習を受けてもらう方法です。石綿含有建材調査者は登録講習機関の講習を受け、修了考査に合格することで取得します。実務経験など受講資格の要件があるため、誰でもすぐ受けられるわけではありません。
- ✓受講資格を満たす社員が誰なのか(建築・土木の実務経験や保有資格)
- ✓自社が受ける工事に必要なのは建築物か工作物か、あるいは両方か
- ✓講習の開催日程と定員(人気があり早期に埋まることがある)
- ✓受講費用と交通費、受講期間中の現場体制
なお、建築物の講習と工作物の講習は別物です。両方の工事を扱うのであれば、どちらか一方の資格では足りない場面が出てきます。取得計画を立てる段階で自社の受注構成を棚卸ししておくと、無駄なく揃えられます。
有資格者を採用する
社内に受講資格を満たす人材がいない場合や、すぐに体制を整えたい場合は、有資格者の採用が選択肢になります。
採用時に確認したいのは資格の区分です。「石綿の資格を持っています」という申告だけでは、一戸建て等に限定された資格なのか、すべての建築物を見られるのかが分かりません。求人票の段階で必要な区分を明記しておくと、応募段階でのミスマッチを防げます。
あわせて、実際に何件の調査経験があるかも確認しておきたいところです。資格を取得していても調査実務の経験が浅ければ、現場で判断に迷う場面が出てきます。資格の有無と実務の厚みは別の話として見る必要があります。
採用が決まった後も、いきなり一人で判断させるのは避けたいところです。最初の数件は経験者と同行させる、判断に迷ったら持ち帰るルールにするなど、社内で確認できる体制を用意しておくと安心です。
専門エージェントの活用
石綿の調査者に限らず、建設業の有資格者は採用市場で最も競合が激しい層です。求人を出しても応募が集まらないのは、単に求職者が少ないからではありません。保有資格の区分・経験工種・対応可能な工事規模といった条件が細かく、求人票の情報だけではマッチングの成否を判断しにくいという構造的な事情があります。
また本記事で見てきたとおり、建設業の人材確保は法規制と隣り合わせです。どの区分の資格者が必要なのか、社内育成と外部採用のどちらが早いのか。こうした判断を都度自社だけで行うのは負担が大きく、判断を誤れば受注機会そのものを逃します。制度を踏まえたうえで採用手段を提案できるパートナーを持つことは、それ自体がリスク管理になります。
石綿事前調査と人材確保に関するまとめ
本記事の要点を整理します。
- ✓事前調査は規模によらずすべての解体・改修工事で必要
- ✓報告義務は解体80㎡以上/改修・工作物は請負100万円以上が対象
- ✓記録は事前調査終了日から3年間保存する
- ✓建築物は2023年10月から有資格者による調査が義務
- ✓工作物は2026年1月から対象に加わり、プラント・電力・鉄道設備まで広がった
- ✓有資格者が社内にいないと着工できず、スピードで競合に負ける
石綿の調査者は、資格が受注の前提になっている数少ない職能です。採用や育成が、そのまま受けられる仕事の幅に直結する——この構造を踏まえて体制を設計してみてください。
お問い合わせ
有資格者の採用や社内育成にお悩みの経営者様・ご担当者様は、ぜひ一度ご相談ください。貴社の状況に合わせて、実効性のある採用戦略をご提案いたします。



