
「経審の点数を上げたいが、何から手をつければいいのか分からない」
「完成工事高はすぐには増やせない。他に打つ手はないのか」
公共工事を受注している経営者様や管理部門のご担当者様から、このようなご相談をいただくことが非常に多くあります。経営事項審査の総合評定値は入札参加資格に直結するため、点数を上げることが売上そのものを左右するからです。
経審の点数はどう決まるのか

総合評定値Pの算式
経営事項審査の総合評定値(P点)は、5つの評点を重み付けして合計したものです。算式は次のとおり定められています。
- ✓X1(0.25):完成工事高
- ✓X2(0.15):自己資本額・利払前税引前償却前利益
- ✓Y(0.20):経営状況
- ✓Z(0.25):技術職員数・元請完成工事高
- ✓W(0.15):その他の審査項目(社会性等)
注目していただきたいのは、ZとWを合わせると0.40、つまり全体の4割を占めるという点です。完成工事高や自己資本額は一朝一夕には動かせませんが、ZとWは人に関する取り組みで動く領域です。
P点は入札参加資格の等級区分(ランク)を決める根拠として使われます。ランクが1つ上がれば、参加できる工事の規模そのものが変わります。数点の差が受注できる案件の幅を左右するため、多くの企業が毎年の経審に神経を使うわけです。
採用が効くのはZ点とW点
Z点は「技術職員数」と「元請完成工事高」で構成されます。このうち技術職員数は、有資格者を何人抱えているかで決まります。採用がそのまま点数になる、最も分かりやすい部分です。
一方のW点は、令和5年1月の改正で「担い手の育成及び確保に関する取組の状況」という位置づけに再編されました。育成や労働環境の整備といった、これまで点数に見えづらかった取り組みが評価対象になっています。つまり採用と育成が、合わせて評点の4割に届く領域に効いてくるわけです。
なぜ今、経審対策なのか
建設業では担い手不足が深刻化し、国も制度面で人材確保を後押ししています。経審の改正が「担い手の育成・確保」を前面に出しているのは、その流れの一部です。
加えて、W点の項目は数年かけて積み上がるものが多く、思い立ってすぐ点数になるわけではありません。CCUSの全現場導入も、技能者のレベル向上も、着手から結果が出るまでに時間差があります。来年の経審を見てから動くのでは遅い、というのが実務上の感覚です。
Z点は技術者の数と資格で決まる

技術職員1人あたりの点数
技術職員数の評価は、資格の区分ごとに1人あたりの点数が決まっています。誰を採用するかで加点幅が変わるということです。
- ✓1級技術者(監理技術者資格者証を保有し監理技術者講習を受講):6点
- ✓1級技術者(上記以外):5点
- ✓監理技術者補佐:4点
- ✓基幹技能者:3点
- ✓2級技術者:2点
- ✓その他技術者:1点
同じ1級技術者でも、監理技術者資格者証と講習受講の有無で5点と6点に分かれます。すでに社内にいる1級技術者に講習を受けてもらうだけで加点される可能性がある、ということです。採用の前に、まず手元を確認する価値があります。
1級技術者1人の重み
その他技術者が1点であるのに対し、1級技術者は5点から6点。1人採用する効果が5〜6倍違う計算になります。同じ採用予算をかけるなら、どの層を狙うかで結果は大きく変わります。
もっとも、1級技術者は市場でも最も採り合いになる層です。給与水準は当然高くなりますし、条件だけで振り向いてもらえるとは限りません。点数だけを見て採用計画を立てると、結局採れずに終わるという事態になりかねない点には注意が必要です。
数字で見ると差は明確です。その他技術者を5人採用しても加点は5点ですが、同じ5点は1級技術者1人で得られます。採用の難易度も人件費も当然違いますが、点数という一点で見れば、ターゲットの設定がそのまま結果を決めることが分かります。

資格取得支援という選択肢

1級技術者を採用したいのですが、なかなか応募が来ません。社内で育てるほうが現実的でしょうか?
外から1級技術者を採るだけが手ではありません。すでに在籍している2級技術者や実務経験者が1級を取得すれば、同じだけ点数は動きます。2点の人材が5点になれば、差は3点です。
ただし1級の取得には実務経験年数の要件があり、思い立ってすぐ受験できるわけではありません。誰がいつ受験資格を満たすのかを一覧にしておくと、何年後にどれだけ点数が動くかが見通せます。採用計画と育成計画を同じ表の上で考えられるようになります。
W点は「育てる会社」を評価する


担い手の育成・確保がW1に
令和5年1月の改正で、従来の「労働福祉の状況」が「担い手の育成及び確保に関する取組の状況」へと再編されました。名称の変更にとどまらず、評価対象そのものが広がっています。
- ✓建設キャリアアップシステム(CCUS)の導入状況:最大15点
- ✓ワークライフバランスに関する取組:5点
- ✓知識・技術・技能の向上に関する取組(W10)
働きやすさの整備や人材育成が、そのまま入札での競争力になるという構造です。これまで「やったほうがいいが後回し」になっていた取り組みに、点数という明確な見返りがついたことになります。
背景には建設業の担い手不足があります。国は人材の確保・育成に取り組む企業を政策的に後押ししており、その手段として経審の評価軸が使われています。制度の意図を読めば、今後もこの方向が強まると考えるのが自然です。
CCUSの導入で加点される
CCUSの評価は、単に事業者登録をしているかではありません。元請として、現場にCCUSの現場登録とカードリーダー設置等の措置を講じているかが問われます。
- ✓すべての建設工事(元請)で措置を実施:15点
- ✓すべての公共工事(元請)で措置を実施:10点
「一部の現場だけ」では加点されない設計になっています。やるなら全現場で徹底する、という判断が必要です。中途半端な導入は、手間だけかかって点数につながりません。
CPDと技能レベル向上の評価
W10「知識及び技術又は技能の向上に関する取組」では、次の2つが評価されます。
- ✓技術者が審査基準日以前1年間に取得したCPD単位の平均値
- ✓技能者のうち、認定能力評価基準による評価が審査基準日以前3年間に1以上向上した者の割合
どちらも単年度の努力では動きにくい指標です。技能者のレベル向上は3年間で見られるため、今から着手して初めて数年後の点数になります。逆に言えば、早く始めた会社ほど差がつく項目です。
採用を経審対策として設計する


どの資格者を採るべきか
点数だけを見れば1級技術者が最優先です。しかし採用の難易度と人件費を踏まえると、現実的な設計は少し違ってきます。
- ✓①棚卸し:在籍する有資格者を区分ごとに数え、現在のZ点を把握する
- ✓②取りこぼしの確認:1級技術者の講習受講漏れなど、費用をかけずに動く点がないか確認する
- ✓③内部育成:2級技術者や実務経験者の1級取得を支援する
- ✓④外部採用:それでも足りない区分を、市場から採用する
- ✓⑤W点の整備:CCUSの全現場導入と育成の記録を並行して進める
外部採用は最後の手段ではなく、最もコストのかかる手段と位置づけるのが実務的です。①と②で動く点数があるなら、そこから着手したほうが早く効きます。
もっとも、①〜③で足りるケースばかりではありません。特定の業種区分で有資格者がゼロという状況なら、外部採用は避けて通れません。優先順位をつけるという話であって、採用を後回しにするという意味ではない点は補足しておきます。
採用と育成をセットで考える
採用した技術者が数年で辞めてしまえば、点数は元に戻ります。Z点は在籍していて初めて計上されるため、定着しなければ投資は回収できません。
具体的には、資格取得後の手当を明示する、現場配属の前に指導役を決めておく、CCUSの就業履歴を本人にも見せて評価と結びつける、といった運用です。いずれも大きな投資は要りませんが、続けるかどうかで差が出ます。
専門エージェントの活用
有資格の技術者は、建設業の採用市場で最も競合が激しい層です。求人を出しても応募が集まらないのは、単に求職者が少ないからではありません。保有資格・経験工種・対応可能な工事規模といった条件が細かく、求人票の情報だけではマッチングの成否を判断しにくいという構造的な事情があります。
また本記事で見てきたとおり、建設業の採用は制度と隣り合わせです。どの区分の有資格者を何人採れば点数がどう動くのか、内部育成と外部採用のどちらが早いのか。こうした判断を都度自社だけで行うのは負担が大きいものです。制度を踏まえたうえで採用手段を提案できるパートナーを持つことは、それ自体が経営判断の精度を上げることにつながります。
経営事項審査と技術者採用に関するまとめ
本記事の要点を整理します。
- ✓総合評定値はP=0.25X1+0.15X2+0.20Y+0.25Z+0.15Wで算出される
- ✓Z点とW点で全体の4割を占め、どちらも人に関する取り組みで動く
- ✓技術職員は1級(講習受講)6点/1級5点/監理技術者補佐4点/基幹技能者3点/2級2点/その他1点
- ✓1級技術者の講習受講漏れは、費用をかけずに1点動かせる可能性がある
- ✓W1は「担い手の育成及び確保に関する取組の状況」に再編。CCUS導入で最大15点
- ✓W10の技能レベル向上は3年間で評価されるため、着手が早いほど有利
完成工事高は急には動きません。しかし人に関する評点は、今日から動かし始められます。まずは在籍する有資格者の棚卸しから始めてみてください。
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