
「新設工事の受注が読めない。安定した仕事の柱がほしい」
「土木の仕事といえば新しく造ることだと思っていたが、点検や補修の求人をよく見かける」
このような問題意識をお持ちの経営者様や、キャリアを考えている技術者の方は非常に多くいらっしゃいます。日本のインフラの多くは高度経済成長期に整備されたもので、その多くが一斉に更新の時期を迎えつつあります。
なぜ今インフラの維持管理なのか

まずは数字で現状を押さえます。国土交通省が公表しているデータは、この分野の将来性をはっきりと示しています。
あわせて押さえておきたいのが、担い手の状況です。国土交通省の資料によれば、建設業就業者に占める55歳以上の割合は36.7%で全産業の32.4%を上回り、29歳以下は11.7%にとどまっています。仕事は増え、人は減る。この不均衡こそが、維持管理分野の人材需要を押し上げている根本の要因です。
建設後50年以上の施設が加速度的に増える
国土交通省の資料によれば、建設後50年以上経過する施設の割合は、今後20年で加速度的に高くなるとされています。道路橋は2040年3月には約75%に達する見通しです。
- ✓道路橋:2023年3月 約37% → 2030年3月 約54% → 2040年3月 約75%
- ✓トンネル:約25% → 約35% → 約52%
- ✓河川管理施設:約22% → 約42% → 約65%
- ✓下水道管渠:約7% → 約16% → 約34%
- ✓港湾岸壁:約27% → 約44% → 約68%
これらは建設年度が判明している施設を対象とした数値です。年度が不明な施設も相当数あるため、実態はさらに厳しい可能性があります。
また、50年という数字は一律の寿命を意味するものではありません。塩害を受けやすい海沿いの構造物や、大型車の通行が多い路線では劣化が早く進みます。地域や条件によって、必要な対応の時期は前倒しになると考えておくのが実務的です。
高度成長期に造ったものが一斉に更新期へ
数字が示しているのは、1960年代から70年代にかけて集中的に整備されたインフラが、そろって寿命の目安を超えていくということです。
もうひとつ見逃せないのが、地域密着型の企業にとっての意味です。点検や補修は地元の構造物を対象とするため、遠方への出張が少なく、地元で完結する仕事になりやすい。これは採用の場面で大きな訴求点になります。
事後保全から予防保全への転換
壊れてから直す事後保全では、費用も通行止めの影響も大きくなります。そこで進められているのが、傷みが小さいうちに手を打つ予防保全への転換です。
予防保全を回すには、定期的に状態を把握し、記録を蓄積し、優先順位をつけて補修する仕組みが必要になります。ここに、点検・診断・設計・施工という一連の仕事が生まれています。
国はインフラ長寿命化計画を策定し、各管理者に個別施設計画の策定を求めてきました。計画に基づいて予算が組まれるため、単年度の景気変動だけで仕事が消えにくいという構造があります。
点検・診断という仕事の中身

では、実際にどのような業務なのか。制度に沿って具体的に見ていきます。
法令に基づく定期点検の仕組み
道路橋やトンネル等については、道路法施行規則に基づく点検が定められています。国土交通省の資料によれば、近接目視により、5年に1回の頻度で行うことを基本とするとされ、点検を適正に行うために必要な知識および技能を有する者が行うこととされています。
- ✓道路法第42条第2項・第3項
- ✓道路法施行令第35条の2
- ✓道路法施行規則第4条の5の5(近接目視により5年に1回の頻度が基本)
- ✓トンネル等の健全性の診断結果の分類に関する告示(平成26年国土交通省告示第426号)
5年に1回という周期は、仕事が周期的に発生し続けることを意味します。一度受注できれば、次の周期でも指名される可能性が高く、事業として計画が立てやすい点も特徴です。
点検の担い手は、建設コンサルタント、専門の点検会社、そして施工会社の維持管理部門などさまざまです。自社の強みをどこに置くかで、必要な人材像も変わりますので、採用計画を立てる前に事業の位置づけを整理しておくことをおすすめします。
健全性の診断は4つの区分
点検の結果は、告示に基づいて健全性の区分に分類されます。単に「傷んでいる」と記録するのではなく、措置の緊急度で仕分けるという考え方です。
- ✓区分I 健全:損傷がない状態
- ✓区分II 予防保全段階:予防的な保全が必要な段階
- ✓区分III 早期措置段階:速やかな補修が必要な段階
- ✓区分IV 緊急措置段階:緊急の対応が必要な段階
逆に言えば、点検だけを請け負って補修につなげられない体制では、収益性が上がりにくいということでもあります。点検から補修設計、施工まで社内でつなげることを目指すのであれば、それを担える人材の確保が経営課題になります。
近接目視と新技術の併用
近接目視が基本ではありますが、点検要領は改定を重ねており、ドローンや画像解析といった新技術の活用も進んでいます。橋梁点検車が入れない場所や、高所・狭隘部での安全確保に有効です。
新技術を扱えることは、この分野での大きな強みになります。土木の知識とデジタル機器の操作を両方持つ人材は、まだ市場に多くありません。
国土交通省は点検データを蓄積・公開する取り組みも進めています。データを読み解いて劣化の傾向を分析できる人材は、今後さらに価値が高まっていくと考えられます。

なぜ人材が足りないのか

仕事は増えているのに、担い手が追いついていません。その理由は3つに整理できます。
自治体の技術職員が不足している
橋やトンネルの多くは市町村が管理しています。ところが、小規模な自治体ほど土木の技術職員が少なく、点検や診断を自前で行うことが困難です。
あわせて、複数の市町村が共同で発注する仕組みや、地域単位でまとめて委託する動きも広がっています。一定の規模で継続的に受注できる可能性があるという意味で、企業にとっては人を採用しやすい環境が整いつつあります。
知識と技能を持つ人が限られている
点検は、必要な知識および技能を有する者が行うこととされています。構造物の劣化のメカニズムを理解し、損傷の程度を判断できることが求められるため、経験の浅い人がすぐに担える仕事ではありません。
関連する資格や研修を修了した技術者は限られており、有資格者の確保が受注可否を左右する場面もあります。企業にとっては、資格取得支援が採用の武器にも人材の定着策にもなります。
とくに若手にとっては、資格取得の道筋が示されているかどうかが会社選びの決め手になります。受験費用の負担と学習時間の確保をセットで用意する企業は、同じ求人条件でも応募の集まり方が違います。
新設と維持管理では求められる能力が違う
新設は「図面どおりに造る」仕事ですが、維持管理は「今ある構造物がどうなっているかを読む」仕事です。経験の中身が異なるため、新設一筋のベテランでも学び直しが必要になります。
- !新設の経験者を採用すれば維持管理もできる、と考えてしまう
- !有資格者を採用せず、点検の受注機会そのものを逃す
- !記録の蓄積を個人に任せ、担当者が辞めるとノウハウが消える
- !ドローンや解析ソフトを導入したが、扱える人を育てていない
- !点検業務を単価の安い下請け仕事と位置づけ、人を配置しない
転職・採用にどう活かすか

最後に、求職者側と企業側それぞれの実践的な視点を整理します。
求職者|新設偏重のキャリアから維持管理へ
土木の技術者にとって、維持管理は景気に左右されにくいキャリアの選択肢です。点検が法令で定められている以上、予算が完全にゼロになることは考えにくいためです。
また、維持管理の現場は新設に比べて工期が読みやすく、繁忙の波が穏やかな傾向があります。生活と両立させながら土木を続けたいという方にとっても、選択肢として検討する価値があります。
企業|安定性と社会的意義を打ち出す
採用の場面では、この分野ならではの魅力を言語化することが大切です。安定した受注、周期的な業務、そして人々の安全を守るという社会的意義。どれも求職者に響く要素です。
- ✓点検・診断・補修設計のどこまでを自社で担っているか
- ✓年間の点検件数と、発注者(国・県・市町村)の構成
- ✓使用している点検機器・ドローン・解析ソフト
- ✓資格取得支援の内容と、取得後の手当額
- ✓記録やノウハウを社内で共有する仕組みの有無
特に、点検から補修設計まで一貫して担える体制があれば、それは技術者にとって成長できる環境だという強いメッセージになります。
求職者側の見極めポイント
会社を選ぶ際は、点検の受注が単発なのか継続的なのかを確認してください。5年周期で同じ管理者から継続して受注できている会社は、技術力が評価されている証拠です。
また、点検結果の記録がどう管理されているかも聞いてみてください。個人のパソコンに散在している会社と、データベースとして蓄積している会社では、働きやすさも将来性も大きく違います。
まとめ
国土交通省の資料によれば、建設後50年以上経過する施設の割合は、道路橋で2040年3月に約75%、トンネルで約52%、港湾岸壁で約68%に達する見通しです。高度経済成長期に整備されたインフラが一斉に更新期を迎える中で、維持管理は今後数十年にわたって仕事が発生し続ける分野になりました。
道路橋やトンネル等は、道路法施行規則に基づき近接目視により5年に1回の頻度で点検することが基本とされ、結果は健全性の4区分に分類されます。点検は補修の入口であり、周期的に仕事が生まれる仕組みです。新設の受注に左右されない事業の柱を探している企業様にとっても、安定したキャリアを求める技術者の方にとっても、真剣に検討する価値のある領域だといえます。
お問い合わせ
維持管理分野の技術者採用や、点検体制の強化にお悩みの経営者様・ご担当者様は、ぜひ一度ご相談ください。貴社の状況に合わせて、実効性のあるご提案をいたします。



