中小企業こそ建設DXを!メリットと始め方をわかりやすく解説

「人手不足が深刻で事業継続が危うい」「2024年問題への対応も急務」「大手はDX化してるが、うちには無理…」こうした悩みを抱える中小建設企業の方は多いのではないでしょうか。

ですが、実はDXの恩恵を最も受けやすいのは中小企業です。人手や時間が限られているからこそ、効率化・省人化が強い武器になります。本記事では、建設DXの必要性や導入メリット、明日から始められるステップまでをやさしく解説。「うちでもできるかも」と思えるヒントがきっと見つかります。

・人手不足や2024年問題といった経営課題と、建設DXの繋がり
中小企業が導入しやすいDXツールについて
自社でDXを始めるための具体的な4つのステップ

目次

そもそも「建設DX」とは?単なるデジタル化との違い

まず、基本となる「建設DX」という言葉を正しく理解することから始めましょう。DXと聞くと、「パソコンやスマホアプリを導入すること(デジタル化)」と混同されがちですが、本質は少し異なります。

・デジタル化(Digitization):アナログな業務をデジタルに置き換えること。
(例:紙の図面をPDFにする、日報を手書きからExcel入力にする)
・建設DX(Digital Transformation):デジタル技術を活用して、業務プロセスや働き方、さらにはビジネスモデルそのものを変革し、新しい価値を生み出すこと。

POINT

「デジタル化」が業務の“置き換え”であるのに対し、「建設DX」は会社の“変革”を目指すものです。

例えば、ドローンで測量し(デジタル化)、そのデータをBIM/CIMと連携させ、設計から施工管理、維持管理までを一気通貫で行うことで、工期を大幅に短縮し、新たな高付加価値のサービスを提供する(DX)。これが建設DXのイメージです。

中小企業にとっては、会社全体を根底から変えるような大掛かりな変革だけがDXではありません。

「情報共有のやり方を変えて、現場監督の無駄な移動時間をゼロにする」

「正確な原価管理を実現して、どんぶり勘定の経営から脱却する」

このように、デジタル技術をきっかけに会社の長年の課題を解決し、利益体質を強化していくことこそ、中小企業にとってのリアルな建設DXと言えるでしょう。

なぜ今、中小建設業にDXが必要なのか?避けては通れない3つの経営課題

「これまでも何とかなってきた」というお考えもあるかもしれません。しかし、建設業界、特に中小企業を取り巻く環境は、数年前とは比較にならないほど厳しさを増しています。

課題1:待ったなしの人手不足と高齢化

もはや説明不要なほど、建設業界は深刻な人手不足に直面しています。

総務省の調査によると、建設業の就業者数は1997年のピーク時(685万人)から、2023年には479万人へと約30%も減少しています。さらに問題なのは、就業者のうち55歳以上が約36%、29歳以下が約12%という、極端な高齢化です。(出典:総務省「労働力調査」)

このままでは、あと5年、10年経った時に、現場を動かしてくれる職人や技術者がいなくなってしまいます。これまでと同じやり方で人を集めようとしても、状況が好転する可能性は極めて低いのが現実です。

課題2:「働き方改革」と2024年問題

2024年4月から、建設業にも時間外労働の上限規制が適用されました。これにより、原則として時間外労働は月45時間・年360時間までとなり、違反した企業には罰則が科される可能性があります。

「残業ありき」で現場を回してきた企業にとっては、死活問題です。少ない人数で、これまで以上の生産性を実現しなければ、工期内に工事を終えることができなくなります。精神論や根性論では、もはや乗り越えられない壁が目の前にあるのです。

課題3:アナログな業務が生む「低い生産性」

「現場に行かないと状況が分からない」「最新の図面が誰のPCに入っているか不明」「事務所に戻らないと日報や書類が作れない」

こうしたアナログな業務スタイルは、多くの無駄を生み出しています。国土交通省の資料でも、建設業は他産業と比較して労働生産性が低い水準にあることが指摘されています。生産性が低いということは、同じ売上を上げるために、より多くの時間と労力がかかっているということです。これは、長時間労働の原因になるだけでなく、会社の利益を圧迫する大きな要因となります。

これらの課題は、どれか一つではなく、複雑に絡み合っています。そして、これらの課題をまとめて解決できる可能性を秘めているのが、建設DXなのです。

中小企業が建設DXに取り組むべき3つの大きなメリット

「課題は分かった。でも、DXに投資する余裕なんて…」と感じるかもしれません。しかし、DXはコストではなく、未来への投資です。ここでは、中小企業がDXによって得られる具体的なメリットを3つご紹介します。

メリット1:劇的な生産性向上とコスト削減

DXは、日々の業務に潜む「ムダ・ムラ・ムリ」を解消し、直接的な利益向上に繋がります。

POINT!
  • 移動時間の削減: 遠隔臨場ツールや情報共有アプリを使えば、現場間の移動や、確認のためだけに現場へ行く必要がなくなります。1日2時間の移動時間が削減できれば、その時間で別の業務が進められます。
  • 書類作成の自動化: 写真管理アプリや日報作成ツールを導入すれば、事務所に戻ってから行っていた面倒な事務作業が、現場のスキマ時間で完了します。残業時間の削減に直結します。
  • 手戻りの防止: BIM/CIMやクラウド上で最新の図面を共有すれば、「古い図面で作業してしまった」といった致命的な手戻りを防げます。再施工にかかるコストと時間のロスは計り知れません。
  • 正確な原価管理: 案件ごとに労務費や材料費を正確にデータ管理することで、どんぶり勘定から脱却できます。赤字案件をなくし、利益率の高い工事に集中する経営判断が可能になります。

こうした小さな改善の積み重ねが、会社の利益体質を大きく変えていくのです。

メリット2:働き方改革の実現と「選ばれる会社」への変貌

若者や求職者が会社を選ぶ基準は、給与だけではありません。「休日の多さ」「残業の少なさ」「働きやすさ」といった点を非常に重視します。

建設DXは、企業の魅力を高め、人材獲得競争を有利に進めるための強力な武器となります。

POINT!
  • 週休2日の実現: 生産性が向上すれば、これまで不可能だと思っていた週休2日制の導入も夢ではありません。「建設業でもちゃんと休める」という事実は、何よりの求人広告になります。
  • 多様な人材の活躍: 現場に出なくても事務所や自宅から現場の進捗管理ができるようになれば、育児や介護と両立したい社員や、体力的にフルで現場に出るのが難しいベテラン社員も活躍し続けられます。
  • 魅力的な職場環境: タブレット一つで業務が完結するスマートな働き方は、デジタルネイティブである若い世代にとって非常に魅力的です。アナログで旧態依然とした職場との差別化は明らかです。

メリット3:ベテランの技を資産に変える「技術承継」

「あのベテラン職人が辞めたら、うちの会社は回らない」

多くの中小企業が抱える、この属人化のリスク。建設DXは、個人の頭の中にしかなかった貴重な知識やノウハウを、会社の資産として残す手助けをします。

ノウハウのデータ化: 熟練技術者の施工手順や判断基準を動画マニュアルとして撮影・保存したり、BIM/CIMデータに過去の施工情報を紐づけたりすることで、若手が見て学べる「生きた教科書」を作成できます。
教育時間の短縮: いつでもどこでもスマホでマニュアルを確認できれば、若手社員は自分のペースで学習を進められます。これにより、指導者の負担を軽減し、教育の効率を大幅に向上させることができます。

個人の経験や勘に頼る経営から脱却し、データに基づいた強い組織を作ること。これもまた、中小企業が生き残るための重要なDXの側面です。

中小企業でも使える!建設DXを支える代表的な技術

「BIMとかAIとか言われても、難しくてよく分からない…」という方のために、ここでは代表的な技術を「何が解決できるのか」という視点で簡単にご紹介します。最初から全てを導入する必要はありません。「自社のあの課題は、この技術で解決できるかも」という視点で見つけてみてください。

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技術できること(例)特に効果的な企業
クラウドサービス書類・図面・写真の共有、勤怠管理、経費精算全ての企業。DXの第一歩として最適。
ドローン短時間での現場測量、高所や危険箇所の点検・撮影測量や点検業務が多い、安全管理を徹底したい企業。
BIM/CIM3Dモデルで設計・施工のミスを防ぐ、正確な数量算出設計から施工まで一貫して行う、手戻りをなくしたい企業。
ICT建機GPS誘導で半自動の掘削、丁張り作業が不要に土木工事がメインで、熟練オペレーター不足に悩む企業。
AI(人工知能)図面からの数量自動拾い出し、写真の自動仕分け書類仕事や単純作業に時間を取られている企業。
IoT(モノのインターネット)建機や資材の位置管理、現場の温湿度・安全監視多くの現場を管理する、安全管理を強化したい企業。

いきなり高価なBIM/CIMやICT建機を導入する必要はありません。まずは、月額数千円から始められるクラウドの情報共有ツールや勤怠管理アプリなど、導入のハードルが低いものから試してみるのが、中小企業のDX成功の秘訣です。

明日から始める!中小企業のための建設DX導入4ステップ

「メリットは分かった。では、具体的に何から始めればいいのか?」ここが最も重要です。以下の4つのステップに沿って、焦らず一歩ずつ進めていきましょう。

STEP1:経営者が「本気でやる」と旗を振る

DXの成否は、経営者の覚悟で9割決まると言っても過言ではありません。

現場からは「新しいことを覚えるのが面倒」「今のやり方で問題ない」といった抵抗が必ず出てきます。その際に、「なぜ今、会社を変えなければならないのか」「DXによって、社員の働き方はこう良くなるんだ」というビジョンを、経営者自身の言葉で熱く語ることが不可欠です。

トップがブレなければ、社員もついてきます。まずは経営者がDXの必要性を深く理解し、社内に向けて「本気でやるぞ」という力強いメッセージを発信することから全てが始まります。

STEP2:背伸びは禁物!身の丈に合った課題を1つ見つける

次に、会社が抱える課題を洗い出してみましょう。しかし、ここでいきなり「会社のビジネスモデルを変革する!」といった大きな目標を立てる必要はありません。

まずは、社員が日々の業務で感じている「不便・不満・不安」に耳を傾けてみてください。

・「毎日、事務所に戻ってからの日報作成が苦痛…」
・「現場で急に図面が必要になった時、会社に電話してFAXしてもらうのが面倒…」
・「誰がどの現場の最新情報を持っているのか、分からなくなることがある…」

こうした身近で、かつ多くの社員が共感する課題を最初のターゲットに設定します。例えば、「まずは情報共有のやり方を変えて、ペーパーレス化を目指す」といった具体的な目標が良いでしょう。

STEP3:小さく試して「成功体験」を積む

課題が決まったら、いきなり全社に高価なシステムを導入するのではなく、まずは「小さく・安く」試して、効果を実感することが重要です。

例えば、「情報共有のペーパーレス化」が目標なら、

  1. まずは社長と現場監督の2〜3人だけで、無料で使えるビジネスチャットツールやクラウドストレージを試してみる。
  2. 1つの現場限定で、現場写真や図面の共有をそのツール上で行ってみる。
  3. 「これは便利だ!」「移動時間が減った!」という小さな成功体験が生まれたら、少しずつ利用する人数や現場を増やしていく。

この「スモールスタート」のアプローチは、初期投資を抑えられるだけでなく、現場の抵抗感を和らげる効果もあります。成功体験を積み重ねることで、「DXは面倒なもの」から「DXは自分たちを楽にしてくれるもの」へと、社内の意識が変わっていきます。

STEP4:DXを担う人材をどうするか?

DXを進める上で、必ず「誰が中心になって進めるのか?」という問題に直面します。

社内にPCやITに詳しい若手社員がいれば、その人材をキーパーソンに据えるのが一つの手です。しかし、多くの中小企業では、そうした人材の確保が難しいのが現実でしょう。その場合、選択肢は2つあります。

社内で育てる: 外部のセミナーに参加させたり、資格取得を支援したりして、意欲のある社員を育成する。
外部の力を借りる: DX導入を支援してくれるコンサルタントや、ITベンダーのサポートを活用する。

どちらか一方ではなく、両方を組み合わせるのが現実的です。特に最初の導入段階では、専門知識を持つ外部パートナーと伴走しながら進めることで、失敗のリスクを大きく減らすことができます。

【目的別】中小企業の建設DX成功事例

ここでは、中小企業が実際にDXで成果を上げた、身近な事例を3つご紹介します。自社に置き換えてイメージしてみてください。

事例1:【業務効率化】クラウド勤怠管理で、給与計算の時間を80%削減(従業員20名・内装工事業)

課題: タイムカードの集計や残業時間の計算に、毎月2日間も経理担当者がつきっきりだった。現場からの直行直帰も多く、正確な労働時間管理ができていなかった。

導入ツール: スマホで打刻できるクラウド勤怠管理システム

成果:

  • スマホでいつでもどこでも打刻できるため、勤怠管理がリアルタイムで正確になった。
  • 労働時間や残業代は自動で集計されるため、給与計算にかかる作業時間が月2日間から半日に短縮。
  • 2024年問題で求められる、正確な労働時間把握の体制が整った。

事例2:【生産性向上】写真管理アプリで、現場監督の残業時間を月30時間削減(従業員35名・土木工事業)

課題: 現場監督がデジカメで撮った大量の工事写真を、事務所に戻ってから整理し、黒板の文字をExcelに打ち直して報告書を作成する作業に、毎日1〜2時間の残業が発生していた。

導入ツール: 工事写真管理アプリ

成果:

  • スマホアプリで撮影すると、写真が自動で整理され、黒板情報(豆図)も写真に合成されるため、事務所での作業がほぼゼロになった。
  • 現場監督の残業時間が大幅に減り、若手社員の定着率が向上。
  • 空いた時間で、顧客対応や次の現場の段取りなど、より付加価値の高い業務に集中できるようになった。

事例3:【技術承継】動画マニュアルで、新人教育の効率が2倍に(従業員15名・設備工事業)

課題: ベテラン職人の退職が相次ぎ、若手への技術指導が追いつかない。人によって教え方がバラバラで、新人が混乱することも多かった。

導入ツール: スマホと動画編集ソフト

成果:

  • ベテラン職人の手元作業や、特殊な工具の使い方をスマホで撮影し、簡単なテロップを入れた「お手本動画」を数十本作成。
  • 新人は、現場に出る前に動画で予習し、分からない部分は現場で何度でも見返せるため、技術の習得スピードが格段に上がった。
  • 指導役の先輩社員の負担も軽減され、本来の業務に集中できるようになった。

まとめ:DXは、未来を切り拓くための「希望」である

本記事では、中小建設企業がなぜ今DXに取り組むべきなのか、そしてその具体的な進め方について解説してきました。

建設DXは、もはや「やるか、やらないか」を議論する段階ではありません。周りの同業他社が次々と変化していく中で、何もしなければ、気づいた時には取り残されてしまう可能性があります。

しかし、悲観する必要はありません。DXは、会社を縛るものではなく、経営者と社員を時間や場所の制約から解放し、会社の未来を明るく照らす「希望」です。

今日、この記事を読んでくださったことが、貴社の輝かしい未来に向けた大きな一歩となることを、心から願っています。

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