
「特定技能で外国人材を採用したいが、建設業だけルールが多いと聞いて手が止まっている」
「育成就労という新しい制度が始まると聞いたが、いまの特定技能はどう変わるのか」
建設分野で外国人材の受入れを検討されている経営者様や人事担当者様は非常に多くいらっしゃいます。国土交通省の資料によれば、建設業就業者に占める55歳以上の割合は36.7%と全産業の32.4%を上回り、一方で29歳以下は11.7%と全産業の16.9%を下回っています。日本人の若手だけで必要な人数をそろえることが年々難しくなっているのが、業界の共通した実感ではないでしょうか。
特定技能「建設」制度の全体像

まずは制度の骨格から確認します。特定技能は2018年(平成30年)12月に創設された在留資格で、一定の専門性と技能を持ち、即戦力として働ける外国人材を受け入れるための仕組みです。建設分野はその対象産業のひとつに位置づけられています。
特定技能1号と2号の違い
特定技能には1号と2号があり、建設分野では両方が設けられています。1号は相当程度の知識または経験を必要とする技能が求められる区分で、在留期間には上限があり、家族の帯同は基本的に認められていません。
これに対して2号は熟練した技能を要する区分で、在留期間の更新に上限がなく、要件を満たせば家族の帯同も可能とされています。建設分野の2号については、業務区分ごとに必要な実務経験が定められており、班長としての実務経験が求められる場合がある点が特徴です。
- ✓1号:相当程度の知識・経験が必要。在留期間に上限があり、家族帯同は基本的に不可
- ✓2号:熟練した技能が必要。在留期間の更新に上限がなく、家族帯同も可能とされる
- ✓2号への移行には試験合格に加え、一定の実務経験(班長経験など)が求められる区分がある
- ✓いずれも受入れには国土交通大臣による建設特定技能受入計画の認定が必要
長く働いてもらうことを前提に採用するのであれば、1号で受け入れた方が将来2号へ移行できるキャリアの道筋を、採用の段階から示しておくことが有効です。
業務区分は「土木」「建築」「ライフライン・設備」の3つ
建設分野で特定技能外国人が従事できる業務は、大きく「土木」「建築」「ライフライン・設備」の3区分に整理されています。かつては型枠施工や左官といった細かい職種ごとに分かれていましたが、現在は3区分に集約され、区分の中であれば複数の作業に従事できる形になりました。
この再編により、たとえば建築区分で受け入れた人材が、季節や工程に応じて社内の異なる作業に携わることが可能になり、多能工として育てやすくなっています。一方で、区分ごとに合格が必要な試験や、対応する技能実習の職種が運用要領の別表で細かく定められているため、自社の工事がどの区分に当たるのかは事前の確認が欠かせません。
自社の主力工事がどの区分に該当するかを取り違えると、採用してからでは配置転換が効きません。募集を出す前に、必ず運用要領の別表で業務内容を突き合わせてください。
技能実習・育成就労との関係
現場で最も多いのは、技能実習を修了した方がそのまま特定技能1号へ移行するパターンです。移行の際には、対応関係にある職種であれば技能試験が免除される取扱いがあり、企業にとっては採用コストを抑えながら現場を知っている人材をそのまま戦力化できる点が大きな利点になります。
また、技能実習制度に代わる新しい制度として育成就労制度の創設が決まっており、こちらは特定技能1号への移行を前提とした「育成」の枠組みとして設計されています。制度の詳細は今後の政省令で固まっていく部分もあるため、現時点では発表されている運用方針を追いながら、自社の受入れ計画を組み立てておくのが安全です。

建設分野だけに課される独自の受入れ要件

ここからが本題です。特定技能「建設」が他の分野と決定的に違うのは、出入国在留管理庁の審査に加えて、国土交通省による事前の計画認定という関門が置かれている点です。手続きの順番を誤ると、在留資格の申請そのものが進みません。
建設特定技能受入計画の認定(国土交通大臣)
建設分野では、受入れ企業があらかじめ「建設特定技能受入計画」を作成し、国土交通大臣の認定を受けることが必須とされています。この計画には、雇用契約の内容、報酬の設定、技能を習得させるための取り組み、受入れ後の講習の実施などを盛り込みます。
認定申請は原則としてオンラインで行い、審査には相応の期間を要します。さらに、認定を受けた計画の内容は、あとから受入れ後の巡回訪問などで確認される仕組みになっています。計画は提出して終わりの書類ではなく、履行が求められる約束であると理解しておくのが安全です。
- ✓雇用契約の内容と、同等の技能を有する日本人と同等額以上の報酬であることの説明
- ✓技能の習熟に応じた昇給の考え方
- ✓受入れ後に実施する講習の計画
- ✓建設キャリアアップシステムへの登録状況
- ✓労働関係法令・出入国管理関係法令の遵守
JAC(建設技能人材機構)への加入
受入れ企業は、特定技能外国人受入事業実施法人である一般社団法人建設技能人材機構(JAC)、または同法人を構成する建設業者団体に所属し、その行動規範を遵守することが求められます。所属の形は、正会員である業界団体の会員になる方法と、JACに賛助会員として直接加入する方法の2通りがあります。
すでに加入している業界団体がJACの正会員であれば、その団体の会員であることをもって要件を満たせる場合があります。まずは自社が所属している団体の状況を確認し、該当しなければ賛助会員としての加入を検討する、という順番で進めると無駄がありません。
なお、賛助会員として加入する場合には年会費と受入れ負担金が発生します。人数が増えるほど費用も積み上がるため、採用計画と資金計画はセットで組む必要があります。
CCUS登録と「日本人と同等以上」の報酬
建設分野では、受入れ企業と受け入れる1号特定技能外国人の双方が建設キャリアアップシステム(CCUS)に登録していることが要件とされています。就業履歴と保有資格をデータで蓄積し、技能に応じた処遇につなげるという制度の趣旨が、特定技能の受入れ要件にも組み込まれている形です。
報酬については、同等の技能を有する日本人と同等額以上の報酬を安定的に支払い、技能の習熟に応じて昇給を行うことが求められます。ここでいう「安定的に」という点が重要で、繁閑によって支給額が大きく上下する日給月給のみの設計では、認定の段階で説明を求められることがあります。
- ✕日本人の同職種・同経験年数の賃金と比較した根拠資料を用意していない
- ✕技能の習熟に応じた昇給の基準が社内に存在しない
- ✕天候や工程で支給額が大きく変動し、収入が安定しない設計になっている
- ✕手当を含めて計算すると、同等の日本人を下回ってしまう
受入れ人数の上限と受入れ後の実務

要件を満たしても、無制限に受け入れられるわけではありません。建設分野には人数の上限が定められており、また受入れ後にも継続的な実務が発生します。
常勤職員の総数を超えない人数制限
建設分野では、受け入れる1号特定技能外国人の人数が、受入れ企業の常勤職員の総数を超えないことという制限が設けられています。技能実習生などを含めて数える取扱いがあるため、すでに実習生を受け入れている企業では、思っていたより枠が小さいというケースが起こりがちです。
受入れ後講習と現場入場の届出
認定を受けた計画に基づき、受入れ後には外国人本人に対する講習を実施することが求められます。安全衛生や日本の建設現場のルール、権利義務に関する内容を扱うもので、これも計画の履行事項のひとつです。
また、1号特定技能外国人を現場に入れる際には「一号特定技能外国人建設現場入場届出書」の提出が必要とされています。元請の立場でも下請の立場でも関わる書類ですので、現場管理のフローにあらかじめ組み込んでおくことをおすすめします。
- ✓受入れ後講習の実施と記録の保管
- ✓建設現場入場届出書の作成・提出
- ✓CCUSの就業履歴の蓄積
- ✓適正就労監理機関による巡回訪問への対応
- ✓昇給の実施状況や報酬支払いの記録の管理
費用と社内体制をどう準備するか
特定技能の受入れにかかる費用は、JACの会費や受入れ負担金、申請の代行を依頼する場合の報酬、住居の手配、渡航関連の費用など多岐にわたります。加えて、日常的な生活支援を担う登録支援機関への委託費が発生することも一般的です。
費用だけを見て「高い」と判断する前に、日本人の中途採用にかかる紹介手数料や、早期離職によって失われるコストと並べて比較してみてください。採用単価ではなく、定着まで含めた総コストで比較することが、判断を誤らないための実務的なコツです。
社内体制については、現場任せにしないことが何より重要です。受入れ計画の履行、書類の管理、講習の実施は管理部門の仕事であり、担当者を明確に一人決めておくだけで運用の安定度が大きく変わります。
外国人材を戦力にする採用・定着の戦略

制度の要件をクリアすることはスタートラインにすぎません。受け入れた人材が長く働き、現場の中核になっていくかどうかは、ここから先の運用で決まります。
日本人採用と外国人材の受入れは両輪で回す
前述のとおり、受入れ人数の上限は常勤職員の総数に連動します。つまり外国人材の受入れを拡大したいのであれば、日本人の採用と定着を同時に進めることが前提条件になります。外国人材で穴を埋めれば日本人の採用は後回しでよい、という考え方は制度上も成り立ちません。
定着を決めるのは「処遇の見える化」
外国人材の離職理由として現場で頻繁に聞かれるのが、「何をどこまでできるようになれば給料が上がるのかが分からない」という声です。これは日本人の若手が抱く不満とまったく同じ構造です。
CCUSの能力評価やレベル判定を社内の賃金テーブルと結びつけ、レベルが上がれば手当が上がる仕組みを明文化しておくと、国籍を問わず納得感が生まれます。特定技能の要件である「技能の習熟に応じた昇給」も、この仕組みがあれば自然に説明できます。
- ✓CCUSのレベルと連動した資格手当・技能手当を設ける
- ✓作業手順書や安全ルールにやさしい日本語とふりがなを併記する
- ✓入社後3か月・6か月・1年の面談を制度として固定する
- ✓住居や生活面の相談窓口を社内に一本化する
- ✓2号への移行を目指す社員に、必要な実務経験の道筋を示す
求職者から見た「外国人が活躍している会社」
転職を考えている日本人の技能者や施工管理の方にとっても、外国人材の受入れ状況は会社を見極める材料になります。特定技能の受入れを行っている企業は、CCUSに登録し、日本人と同等以上の報酬を説明でき、昇給の基準を持っていることが前提になるからです。
つまり、特定技能を適正に受け入れている会社は、賃金と教育の仕組みが整っている可能性が高いということです。求人票を見るときには、外国人材の在籍状況や、CCUSへの対応、資格手当の記載といった点をあわせて確認してみてください。
逆に、受入れの体制が整わないまま人数だけを増やそうとしている企業では、現場の負担が日本人の職長に集中しがちです。面接の場で「教育や書類は誰が担当しているのか」を質問してみると、実態が見えてきます。
まとめ
特定技能「建設」は、他の分野にはない独自の要件が積み重なった制度です。国土交通大臣による建設特定技能受入計画の認定、JACまたはその構成団体への所属、CCUSへの登録、日本人と同等以上で安定的な報酬と技能の習熟に応じた昇給、そして常勤職員の総数を超えないという人数制限。この5点を押さえておけば、大きく道を外すことはありません。
そして、これらの要件はいずれも「日本人の技能者がきちんと処遇されている会社であること」を前提としています。外国人材の受入れ体制を整えることは、そのまま日本人の採用力を高めることにつながります。制度対応を負担と捉えず、自社の人事の仕組みを見直す機会として活用していただければと思います。
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