【人手不足対策】建設業のシニア技術者は宝!70歳雇用と採用・転職

「ベテランが65歳で辞めてしまうと、あの技術を引き継げる人がいない」
「70歳まで働いてもらいたいが、安全面や体力面が不安で踏み切れない」

このようなお悩みを抱える経営者様や人事担当者様は非常に多くいらっしゃいます。国土交通省の資料によれば、建設業就業者に占める55歳以上の割合は36.7%で全産業の32.4%を上回り、29歳以下は11.7%で全産業の16.9%を下回っています。現場の3人に1人以上が55歳以上という構造の中で、シニア層をどう位置づけるかは経営そのものの問題になっています。

しかし、シニアの活用は「若手が採れないから仕方なく」という消極的な選択ではありません。法制度の整備、助成金、そして令和8年4月から適用が始まった安全衛生の指針を組み合わせれば、技能承継と採用力強化を同時に進める積極的な戦略になり得ます。本記事では、その具体策を一次情報に基づいて整理します。

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目次

建設業の高齢化と「シニアは戦力」という現実

まずは数字から現状を確認し、シニア層が持つ価値を整理します。

55歳以上が36.7%、29歳以下が11.7%という構造

この数字が意味するのは、単なる「高齢化」ではありません。今後10年で現場の3割以上が入れ替わるということです。若手の入職だけで穴を埋めようとしても、数の上で追いつかないことは明らかです。

だからこそ、多くの企業が「若手採用」と並行して「シニアに長く働いてもらう」という二本立ての戦略を採り始めています。定年を迎える方の再雇用は、採用コストがほぼゼロで即戦力を確保できる手段でもあります。

技能と人脈は簡単には代替できない

ベテランが持っているのは作業の腕だけではありません。地場の協力業者との関係、発注者の担当者との信頼、過去のトラブル事例の記憶といった、マニュアル化しにくい資産が蓄積されています。

特に施工管理では、段取りの判断や近隣対応の勘所が経験に強く依存します。若手が同じ判断をできるようになるには、実際の現場で何度も一緒に動く時間が必要です。シニアに残ってもらうことは、その時間を確保することでもあります。

また、協力業者や発注者との関係は個人に紐づいていることが多く、担当者が引退すると同時に取引が細るという事態も起こり得ます。人脈の引き継ぎには重なりの期間が必要だと考え、退職時期の数年前から後任と同行させる計画を立てておくことをおすすめします。

それでもシニアが辞めていく理由

一方で、本人は働き続けたいのに退職してしまうケースも少なくありません。現場で聞かれる理由は、おおむね次のようなものです。

シニアが職場を離れる主な理由
  • 再雇用で賃金が大きく下がり、納得できなかった
  • 体力的にきつい作業しか任されず、居場所がないと感じた
  • 若手への指導を任されたが、評価にも手当にも反映されなかった
  • 健康面の不安を相談できる窓口が社内になかった
  • 雇用継続の可否が本人に伝わるのが遅く、他社を探してしまった

いずれも制度と運用で改善できる項目です。辞める理由の多くは体力ではなく処遇と役割にあると理解しておくのが実務的です。

高年齢者雇用安定法で企業に求められること

シニア活用を考えるうえで土台になるのが高年齢者雇用安定法です。義務の範囲と努力義務の範囲を正しく切り分けて理解しておく必要があります。

65歳までの雇用確保措置は3つ

厚生労働省の資料によれば、事業主は次のいずれかの高年齢者雇用確保措置を講じる必要があるとされています。従来は労使協定による基準で継続雇用の対象者を絞ることができる経過措置がありましたが、その経過措置は2025年3月31日をもって終了しました。

Check 65歳までの高年齢者雇用確保措置
  • 定年制の廃止
  • 65歳までの定年の引上げ
  • 希望者全員を対象とする65歳までの継続雇用制度の導入

2025年4月1日以降は、対象者を選別せず希望者全員を継続雇用する運用が求められます。就業規則に旧来の選定基準が残ったままになっていないか、この機会に確認しておくことをおすすめします。

なお、継続雇用の対象を特殊関係事業主(子会社・関連会社など)に広げる仕組みも用意されています。グループ会社を持つ企業では、本体で担いきれない役割をグループ内で受け止めるという設計も検討の余地があります。

70歳までの就業確保措置は努力義務

あわせて、令和3年4月1日から70歳までの就業確保措置が努力義務として設けられています。こちらは雇用に限らず、業務委託や社会貢献事業といった雇用以外の選択肢も認められている点が特徴です。

Point 70歳までの就業確保措置(努力義務)の5つ
  • 70歳までの定年の引上げ
  • 定年制の廃止
  • 70歳までの継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度)の導入
  • 70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入
  • 70歳まで継続的に社会貢献事業に従事できる制度の導入

建設業では、4番目の業務委託という形が現実的な選択肢になることがあります。たとえば安全パトロールや若手指導、書類作成の支援といった役割であれば、常勤でなくても価値を発揮できるためです。ただし、実態が雇用であるにもかかわらず業務委託の形をとると偽装請負の問題が生じます。指揮命令の有無を含めて慎重に設計する必要があります。

「65歳定年の義務化」ではない点に注意

よく誤解されますが、厚生労働省は2025年4月1日以降について「65歳までの定年の引上げが義務になるわけではありません」と明示しています。定年を60歳のままとし、希望者全員を65歳まで継続雇用する形でも要件を満たすという整理です。

とはいえ、求職者から見れば「定年65歳」と明記されている会社の方が安心感があります。義務かどうかという最低ラインの話と、採用市場でどう見えるかという話は分けて考えるのが得策です。

安全と健康|令和8年4月から適用の指針

シニアに長く働いてもらうには、安全衛生の体制づくりが不可欠です。この分野では2026年に大きな動きがありました。

改正労働安全衛生法と「高年齢者の労働災害防止のための指針」

厚生労働省によれば、令和7年法律第33号による改正で労働安全衛生法第62条の2第2項が設けられ、事業者が高年齢者の特性に配慮した作業環境の改善、作業の管理等を講ずるよう努めるべきことが規定されました。これを受けた「高年齢者の労働災害防止のための指針」は、令和8年4月1日から適用されています。

努力義務ではありますが、指針が公示された以上、事故が起きた際に「何も対策していなかった」という状態は説明が難しくなります。現時点で着手していない企業は早めに検討を始めるのが安全です

建設現場で特に注意したいリスク

高年齢の労働者に多い災害としては、転倒や墜落・転落、無理な動作による腰痛などが挙げられます。建設現場は段差や仮設物が多く、これらのリスクが集中しやすい環境です。

見落とされがちなのが、加齢に伴う視覚や聴覚の変化です。暗がりでの段差や、重機の接近音に気づきにくくなることが災害につながります。照明の増設と、視覚に訴える警報の併用は、費用対効果の高い対策といえます。

Check 現場でできる具体的な改善
  • 通路の段差解消と、仮設照明の増設で足元を明るくする
  • 資材の仮置き場所を決め、通路上に物を置かない運用を徹底する
  • 重量物の運搬に台車や小型機械を積極的に使う
  • 熱中症対策として、休憩の時間と場所を作業計画に組み込む
  • 高所作業は本人の希望と体調を確認したうえで配置を決める

健康管理と作業配置の工夫

健康診断の結果を踏まえた配置転換は、シニア活用の要になります。とはいえ、本人の同意を得ずに一方的に軽作業へ回すと、やりがいを奪う結果になりかねません。

効果的なのは、本人と面談したうえで役割そのものを再設計することです。体力を使う作業から、判断と指導を担う役割へ移行してもらえば、本人の納得感と会社の生産性を両立できます。

作業時間の柔軟化も有効です。週4日勤務や短時間勤務を選べる制度があれば、体力面の不安を理由とした退職を防げます。人員計画上は扱いにくく感じるかもしれませんが、週3日でも現場に立ってくれるベテランの価値は、採用市場で代わりを探す難易度と比べれば明らかです。

シニア活用を採用力に変える

制度対応と安全対策が整ったら、次はそれを採用と定着に結びつける段階です。

助成金を使って制度整備の負担を下げる

独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)は、65歳超雇用推進助成金として3つのコースを設けています。制度の見直しにかかる費用の一部を賄えるため、就業規則の改定を検討する際にあわせて確認しておくとよいでしょう。

OK 65歳超雇用推進助成金の3コース
  • 65歳超継続雇用促進コース:65歳以上への定年引上げ、定年の定めの廃止、66歳以上への継続雇用制度の導入など
  • 高年齢者評価制度等雇用管理改善コース:能力開発、能力評価、賃金体系、労働時間等の見直しまたは導入
  • 高年齢者無期雇用転換コース:50歳以上かつ定年年齢未満の有期契約労働者を無期雇用に転換

支給額や要件は年度によって変わります。申請前に必ず最新の支給要領を確認してください。とくに就業規則の改定日と申請時期の前後関係は、支給の可否に直結する重要なポイントです。

技能承継を「仕組み」にする

シニアに指導役を担ってもらうのであれば、それを役割として明確にし、手当という形で処遇に反映させることが欠かせません。善意に頼った指導は長続きせず、教える側にも教わる側にも不満が残ります。

たとえば、指導手当を月額で設定し、担当する若手の氏名と育成の到達目標を半期ごとに決める。この程度の仕組みでも、教えることが仕事だと社内で認められている状態をつくれます。

あわせて、ベテランの持つノウハウを記録に残す取り組みも進めておきたいところです。作業手順を動画で撮る、過去の失敗事例を一言メモで残すといった簡単なことでかまいません。引退のタイミングでノウハウが消えない仕組みをつくることが、会社の資産を守ることにつながります。

求職者から見た「シニアが働き続けている会社」

転職を検討している方にとって、60代・70代の社員が現役で働いている会社は、それだけで有力な判断材料になります。長く働ける環境が実際に機能している証拠だからです。

とくに20代・30代で入職を考えている方にとっては、自分がその会社で30年後にどうなっているかが見えるという点が大きい。ベテランが生き生きと働き、若手を教える体制がある会社は、キャリアの見通しが立てやすい職場だといえます。

求人票や面接では、平均年齢だけでなく「最年長の社員は何歳か」「定年後に何人が働き続けているか」を確認してみてください。数字で答えられる会社は、シニア活用を制度として運用している可能性が高いといえます。

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まとめ

建設業の55歳以上の割合は36.7%、29歳以下は11.7%。この構造の中では、シニアの活用は選択肢ではなく前提条件になりつつあります。制度面では、65歳までの雇用確保措置について労使協定による経過措置が2025年3月末で終了し、希望者全員を対象とする運用が求められています。70歳までの就業確保措置は努力義務で、雇用以外に業務委託や社会貢献事業という選択肢も用意されています。

さらに、令和8年4月1日からは「高年齢者の労働災害防止のための指針」が適用され、高年齢者の特性に配慮した作業環境の改善が事業者の努力義務として位置づけられました。制度対応・安全対策・処遇設計の3つをそろえることが、シニアに長く働いてもらうための現実的な道筋です。そしてその取り組みは、若手の求職者に対して「長く働ける会社」という何よりのメッセージになります。

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