
「塗装は未経験でもできる仕事だと思われていて、応募者の定着が悪い」「腕のいい職人が独立してしまい、社内に技術が残らない」。
このようなお悩みを抱えている経営者様や人事担当者様は、非常に多くいらっしゃいます。塗装は工程の最後に来るため、外から見れば「仕上げに色を塗る作業」に映りがちです。しかし実際には、下地処理・材料選定・化学物質の管理まで含む、知識量の多い職種です。
塗装工は「色を塗る」だけの仕事ではない

塗装の良し悪しは、塗った直後ではなく5年後・10年後に表れます。その差を生むのは、塗る前の工程です。
仕事の大半は、塗る前の下地処理
外壁塗装の工程は、高圧洗浄、ケレン(さび落とし・旧塗膜の除去)、下地補修、養生、下塗り、中塗り、上塗りと進みます。このうち塗料を実際に塗るのは後半だけで、仕上がりと耐久性を決めているのは前半の下地処理です。
下地をおろそかにした塗装は、数年で膨れや剥離を起こします。見えない工程にどれだけ手をかけられるかが職人の評価を分ける、という点は、他の仕上げ職種と共通する部分です。
この構造は、採用の場面でも意味を持ちます。「未経験でも塗れる」のは事実ですが、「未経験でも下地がわかる」ことはありません。会社が教えるべき中身は塗り方ではなく、建物の状態を見て工法と材料を決める判断のほうだとご理解いただくのが正確です。
建築塗装・鋼橋塗装・金属塗装で仕事はまったく違う
ひと口に塗装工と言っても、扱う対象によって現場は大きく変わります。国家検定である技能検定でも、塗装職種は作業ごとに区分されています。
- ✓建築塗装作業…住宅・ビルの外壁や内装。1級・2級
- ✓鋼橋塗装作業…橋梁の防食塗装。1級・2級
- ✓金属塗装作業…金属製品への塗装。1級・2級・3級
- ✓噴霧塗装作業…スプレーによる塗装。1級・2級
求人票に「塗装工」とだけ書くと、応募者は自分の経験が活きるかどうかを判断できません。どの作業を主に扱う会社なのかを明記するだけで、ミスマッチは目に見えて減ります。
塗り替え需要は、新築が減っても消えない
塗装が他の職種と違うのは、同じ建物に何度も仕事が発生する点です。外壁も屋根も鋼構造物も、一定の周期で塗り替えが必要になります。新築着工が落ち込む局面でも、既存ストックがある限り需要は残ります。
塗装の現場には守るべき法令がある

塗装は化学物質を扱う作業です。労働安全衛生法令は、この点について具体的な義務を定めています。
有機溶剤を扱うなら有機溶剤作業主任者が必要
労働安全衛生法施行令第6条第22号により、令別表第6の2に掲げる有機溶剤を製造し、または取り扱う業務には有機溶剤作業主任者を選任しなければなりません。資格は技能講習の修了によって得られます。
- ✓作業主任者の選任(令第6条第22号、有機則第19条の2)
- ✓作業方法の決定と、労働者への指揮
- ✓局所排気装置など換気設備の点検
- ✓保護具の使用状況の監視
屋内や換気の悪い場所での塗装は、中毒のリスクがある作業です。近年は水性塗料への切り替えも進んでいますが、溶剤系を使う現場がある限り、有資格者は必要とお考えください。
石綿含有仕上塗材の除去には決められた措置がある
外壁や天井に使われてきた仕上塗材には、石綿を含むものがあります。大阪労働局の資料では、石綿含有仕上塗材はレベル3相当として扱われ、電動工具を用いて除去する場合には、けい酸カルシウム板第1種と同様の措置が求められるとされています。
- ✓作業場所をビニールシート等で隔離する(負圧までは求められない)
- ✓常時湿潤な状態を保つ
- ✓または、除じん性能を有する電動工具を使用する
- ✓石綿作業主任者を選任し、その職務を実施する
また、解体・改修工事の事前調査については、建築物は令和5年10月1日以降、有資格者が行うこととされています。塗り替え工事であっても、既存塗膜を削る作業は改修工事に当たり得ます。この点は受注前に確認しておくのが安全です。

足場と高所作業車まわりの資格も欠かせない
塗装工は高所で作業する時間が長い職種です。労働安全衛生法施行令第6条第15号では、つり足場、張出し足場、または高さが5m以上の足場の組立て・解体・変更の作業について、足場の組立て等作業主任者の選任を定めています。
また、高さ2m以上の箇所で作業床を設けることが困難な場合には、墜落制止用器具(フルハーネス型)の使用が求められます。使用にあたっては特別教育の受講が必要です。
自社で足場を掛ける会社であれば、この資格は必須になります。掛けない会社でも、足場の欠陥に気づける知識があるかどうかは安全管理上の差になります。高所作業車運転技能講習とあわせて、取得を計画に組み込んでおくことをおすすめします。
資格でキャリアと収入の伸び方が変わる

塗装は腕の差が出やすい仕事ですが、その腕を第三者に伝える手段がなければ、単価にも待遇にも反映されません。
建築塗装作業の塗装技能士は1級・2級
建築塗装作業の技能検定には特級と3級がなく、1級と2級の2区分で実施されています。1級は上級技能者が、2級は中級技能者が通常有すべき技能の程度とされています。
中央職業能力開発協会によれば、技能検定の受検に必要な実務経験は原則として1級が7年以上、2級が2年以上です。実技試験では複層塗材の塗装、刷毛とローラーブラシによる塗装、スプレーパターンの作成などが課されます。

「20年やっています」より「1級塗装技能士です」のほうが、施主にも元請にも一瞬で伝わります。
CCUSのレベル評価で経験を数字にする
建設キャリアアップシステム(CCUS)では、就業日数・保有資格・職長経験から技能者を4段階で評価します。レベル1が白、レベル2が青、レベル3がシルバー、レベル4がゴールドのカードとなります。
国土交通省の資料では、令和8年6月30日時点の判定件数はレベル4が68,952件、レベル3が48,724件、レベル2が55,251件です。能力評価基準は50分野で策定されており、塗装もその対象に含まれます。
登録建設塗装基幹技能者は3,513名
登録基幹技能者は、現場で職長をまとめる立場の技能者を認定する制度です。建設業振興基金によれば、受講資格は実務経験10年以上かつ職長経験3年以上とされています。
同基金の公表値では、令和8年3月31日現在の登録建設塗装基幹技能者は3,513名、全種目の合計は91,598名です。経営事項審査でも加点対象となるため、企業にとっては受注面の価値も持ちます。
塗装工を採用・育成するために企業がすべきこと


塗装は「未経験歓迎」の求人が多い分、同じ文言では差がつきません。何を学べて、どこまで行けるのかを示す必要があります。
「未経験歓迎」の次に書くべきことがある
求職者が本当に知りたいのは、入社後に何を覚え、いつ独り立ちできるのかです。1年目・3年目・5年目にできるようになることを具体的に書いてある求人票は、それだけで応募の質が変わります。
- ✓扱う主な工事(戸建て外壁/マンション大規模修繕/鋼構造物など)
- ✓下地処理から任せるのか、養生から始めるのか
- ✓足場の有無と、自社で掛けるかどうか
- ✓資格取得支援の範囲(受検料・講習費・合格時の手当)
特に「足場を自社で掛けるかどうか」は、職人にとって働き方が変わる分かれ目です。書いていない会社が多いからこそ、書くだけで目に留まります。
資格を取る順番を先に設計しておく
塗装工が取得する資格は複数の系統にまたがります。安全系(足場、高所作業車)、化学物質系(有機溶剤、石綿)、技能系(技能士)、そしてマネジメント系(職長教育、登録基幹技能者)です。
独立する前に、社員でいる理由をつくる
塗装は道具と車があれば一人でも仕事が回る面があるため、腕が上がった職人ほど独立を考えます。これ自体は悪いことではありませんが、会社としては技術が残らないという問題が生じます。
有効なのは、一人ではできない仕事を持っていることです。大規模修繕、鋼構造物の防食塗装、石綿含有建材が絡む改修——いずれも有資格者の体制と組織がなければ受けられない仕事です。そこに携われることが、社員でいる理由になります。
とはいえ、体制を整えるにはまず人が必要です。塗装のように経験の幅が広い職種では、求人媒体だけでなく、職種を理解している人材紹介の力を借りることが近道になる場合があります。
まとめ
塗装工は、建物の寿命を延ばす仕事です。同時に、有機溶剤や石綿含有仕上塗材といった化学物質を扱うため、法令上の要件が明確に定められている職種でもあります。
新築が減っても塗り替えの需要は残り、担い手は減り続けています。有資格者を揃えられる会社とそうでない会社の差は、今後さらに受注の差として表れていくと考えられます。
あわせて、塗装は独立しやすい職種でもあります。会社に残る理由をつくれるかどうかが、育てた人材を定着させられるかどうかを分けます。
- ✓塗装の良し悪しを決めるのは、塗る前の下地処理
- ✓有機溶剤を扱う業務には有機溶剤作業主任者の選任が必要(令第6条第22号)
- ✓石綿含有仕上塗材はレベル3相当。電動工具での除去には隔離・湿潤化等の措置
- ✓建築塗装作業の技能士は1級・2級。1級は実務経験7年以上が目安
- ✓登録建設塗装基幹技能者は実務10年・職長3年から。令和8年3月末で3,513名
資格は、職人にとっては単価の根拠に、企業にとっては受注の根拠になります。取得の順番を先に描いておくことが、結果として採用と定着の強さにつながるとお考えいただければと思います。
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