
「退職金制度をつくりたいが、自社だけで積み立てる余力がない」
「求人票の待遇欄に書けるものが少なく、他社と差がつけられない」
このようなお悩みをお持ちの経営者様や人事担当者様は非常に多くいらっしゃいます。建設業では、現場ごとに就業先が変わる働き方が一般的なため、一社で完結する退職金制度がなじみにくいという事情がありました。
建退共とはどんな制度か

まずは制度の基本から確認します。運営しているのは独立行政法人勤労者退職金共済機構の建設業退職金共済事業本部です。
国土交通省の資料によれば、建設業就業者に占める55歳以上の割合は36.7%で全産業の32.4%を上回り、29歳以下は11.7%にとどまっています。若手に選ばれる待遇をどう用意するかは、業界全体の課題です。退職金は、その中でも他業種との比較で必ず見られる項目のひとつです。
国がつくった建設現場のための退職金制度
建退共の最大の特徴は、会社が変わっても退職金が通算される点にあります。建退共に加入している企業で働いていれば、勤め先が変わっても掛金の記録が引き継がれ、建設業界で働いた期間全体が退職金に反映される仕組みです。
企業側から見ても、この仕組みには意味があります。自社だけで数十年分の退職金原資を確保する必要がなく、掛金を納めた分だけが確定した積み上げになるため、将来の債務が読めない不安がありません。中小の建設会社にとって、この点は導入のハードルを大きく下げてくれます。
掛金は日額320円、月額換算で6,720円
掛金は日額320円です。21日を1か月として換算するため、月額に直すと6,720円という水準になります。なお、令和3年10月1日より前は日額310円でしたので、古い資料をご覧の際は注意してください。
この金額を「高い」と見るか「安い」と見るかは、比較の対象によります。中途採用で人材紹介を使えば、年収の20%から30%程度の手数料がかかるのが一般的です。月額6,720円で退職金という強い訴求ができると考えれば、採用コストとしては十分に見合う投資といえます。
対象になる人とならない人
建退共の対象は、建設現場で働く技能労働者です。一方で、企業の役員や、他の退職金制度にのみ加入している方は対象から除かれると整理されています。
- ✓対象は建設現場で働く技能労働者であること
- ✓企業の役員は対象外であること
- ✓他の退職金制度にのみ加入している方の取扱いを確認すること
- ✓退職金の請求には掛金納付日数の合計が12月(21日を1か月と換算)必要であること
- ✓短期間で辞めた方の記録も、次の会社で通算されること
退職金を請求できるのは、共済証紙および電子申請により掛金が納付された日数の合計が12月に達してからです。数か月で辞めた方でも記録自体は残り、次の建退共加入企業で通算されますので、無駄になるわけではありません。
また、加入した従業員には共済手帳が交付されます。手帳は本人が保管するのが原則ですが、実務上は会社が預かって管理しているケースもあります。退職時に確実に本人へ返す運用を決めておかないと、後日のトラブルにつながりますので注意が必要です。
企業にとってのメリット

建退共は従業員のための制度ですが、企業側にも具体的な利点があります。税務、経審、そして国の助成の3点です。
掛金は全額を損金・必要経費に算入できる
建退共事業本部によれば、事業主が払い込む掛金は、法人企業であれば損金、個人事業主であれば必要経費として全額を算入できます。社内で退職金を積み立てる場合と比べて、税務上の取扱いが明確である点は実務的な利点です。
掛金は前払いの形で購入・納付する仕組みのため、資金繰りの計画に組み込んでおく必要があります。年度初めにまとめて手当てしておくと、期中の運用が楽になります。
また、掛金の納付状況は従業員本人にとって関心の高い情報です。年に一度は納付日数を本人に伝える運用にしておくと、制度があること自体が社内に浸透し、定着効果が高まります。
経営事項審査で加点評価される
公共工事の入札に参加する企業にとって見逃せないのが、経営事項審査での加点です。建退共事業本部は、建退共制度に加入し適切に履行している事業主は加点評価されますと明記しています。

新規加入者への国の掛金助成
建退共事業本部によれば、新規加入者については国が掛金の一部を補助する仕組みがあります。初回交付の共済手帳の50日分が対象とされており、導入時の負担を軽くしてくれます。
導入を検討する際は、この助成を前提に初年度の費用を試算してみてください。思っていたより現実的な金額に収まるケースが少なくありません。
あわせて、都道府県や業界団体が独自の支援制度を設けていることもあります。加入を検討する段階で、所在地の建設業協会や労働局の窓口に確認しておくと、使える支援を取りこぼさずに済みます。
電子申請方式とCCUSとの連携

建退共といえば共済証紙を手帳に貼るイメージが強いかもしれませんが、現在は電子的に掛金を納付する方式が整備されています。
証紙貼付方式から電子申請方式へ
従来の証紙貼付方式では、共済証紙を購入して手帳に貼り、消印を押すという作業が必要でした。現場の人数が多いほど、この事務負担は無視できません。
切り替えにあたっては、電子申請専用サイトでの手続きが必要になります。現場ごとの就労実績をどう集めるかという運用設計が要になりますので、まずは1現場で試してから全社に広げる進め方をおすすめします。
CCUSの就業履歴データと連携できる
国土交通省の資料によれば、電子申請方式の利用に加えて建設キャリアアップシステムのデータと照合すれば、公共工事の現場で働く労働者に確実に掛金が充当されたことを確認することが可能とされています。
CCUSのカードリーダーで就業履歴を蓄積している現場であれば、入退場の記録がそのまま掛金の根拠データになるということです。CCUSの導入を「手間が増えるだけ」と感じている企業にとって、建退共との連携は導入効果を実感しやすいポイントになります。
公共工事における提出期限の違い
公共工事では、掛金の納付を証する書類を発注者に提出する必要があります。国土交通省の資料によれば、証紙貼付方式では工事契約締結後1か月以内に掛金収納書を提出、電子申請方式では40日以内に提出という整理がなされています。
- ✓証紙の購入・保管・貼付の事務がなくなる
- ✓元請が、下請の労働者へ掛金が充当されたことをシステム上で把握できる
- ✓CCUSの就業履歴データと照合して確認できる
- ✓公共工事における書類の提出期限に余裕がある
- ✓記録が残るため、後日の照会にも対応しやすい
建退共を採用と定着に活かす

制度を導入するだけでは採用力にはなりません。伝え方まで設計して初めて、応募の増加や定着につながります。
「退職金あり」は求人票で効く
求人票の待遇欄で、社会保険と並んで応募者が注目するのが退職金の有無です。建設業では退職金制度がない企業も少なくないため、「建退共加入」と書けるだけで比較の中で目立ちます。
記載する際は「退職金制度あり」で終わらせず、「建設業退職金共済(建退共)に加入」と制度名まで書くことをおすすめします。制度名があることで、求職者は自分で内容を調べることができ、信頼につながります。
あわせて、掛金を会社が全額負担していること、就労した日数に応じて積み上がることも一言添えると、待遇の実感が伝わりやすくなります。数字を出せる会社は、それだけで信頼されます。
通算できることを正しく伝える
中途採用の場面では、通算の仕組みが強力な訴求材料になります。前職も建退共加入企業であれば、これまでの記録がそのまま引き継がれるからです。
面接では「前の会社で建退共の手帳をお持ちですか」と確認してみてください。持っている方であれば、入社後も積み上げが続くという安心感を具体的に伝えられます。手帳を紛失している場合も、事業本部に照会すれば確認できる仕組みがあります。
- ✓建設業退職金共済に加入していることを制度名で明記する
- ✓掛金は会社が全額負担していることを伝える
- ✓前職からの通算ができることを説明する
- ✓電子申請方式で就労日数を確実に記録していることを示す
- ✓CCUSと連携し、就業履歴が正しく反映される運用であることを伝える
求職者側の確認ポイント
転職を検討されている方にとっても、建退共は会社を見極める材料になります。加入していれば、掛金を毎月きちんと納める体力と管理能力がある会社だと判断できるからです。
確認しておきたいのは、加入の有無だけでなく運用の実態です。「手帳は誰が管理していますか」「就労日数はどうやって記録していますか」と尋ねてみてください。電子申請方式やCCUS連携で運用している会社であれば、明確な答えが返ってきます。
逆に、加入していると言いながら手帳を見たことがない、就労日数の記録が曖昧だという場合には、運用が形骸化している可能性があります。制度は加入して終わりではなく、日々の記録があってはじめて退職金になるものだからです。
まとめ
建退共は、独立行政法人勤労者退職金共済機構が運営する、建設現場で働く人のための退職金制度です。掛金は日額320円、21日を1か月として月額換算6,720円。掛金は法人であれば損金、個人事業主であれば必要経費として全額算入でき、新規加入者には初回交付の共済手帳の50日分について国の助成があります。経営事項審査でも加点評価の対象です。
さらに、電子申請方式を使えば証紙の事務がなくなり、建設キャリアアップシステムのデータと照合して掛金の充当を確認することもできます。月額6,720円で「退職金がある会社」になれるという事実は、採用市場において想像以上に大きな武器です。制度を導入したら、求人票と面接での伝え方までセットで整えていただければと思います。
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